牛乳アレルギーは子供の食物アレルギーの中でも比較的多く見られるもので、卵アレルギーに次ぎ、2番目に多く見られています。満1歳までに2.5%の子供が経験しますが、満3歳までにはその85〜90%が自然に治ってしまうと言われています。また、大人の場合はそれほど多くなく、0.1〜0.5%くらいの割合で見られるとされています。ただし、牛乳アレルギーは、アナフィラキシーショックという重篤なアレルギー症状を起こしやすいため注意が必要です。
牛乳アレルギーの原因
牛乳アレルギーは、牛乳に含まれる様々な種類のタンパク質によって引き起こされます。いくつもの種類のタンパク質が牛乳アレルギーと関わりますが、その中でも主要な原因となっているのは「カゼイン」と呼ばれるタンパク質です。
このカゼインは熱に強いという特性がありますので、加熱をしてもタンパク質の構造が変化せず、加熱調理をしてもアレルギーを起こす力に変化は起こりません。そのため、牛乳アレルギーがある場合は、調理に含まれる牛乳も注意して避ける必要があります。また、牛乳が発酵しても、カゼインの成分は残ります。そのため、チーズやヨーグルトのように発酵加工されている場合でも、牛乳アレルギーのある人は慎重に避けなくてはなりません。
牛乳アレルギーの症状
牛乳アレルギーの症状は摂取してからものの数分で現れることもあれば(即時反応)、数時間経ってから、もしくは数日経ってから現れることもあります(遅延反応)。いずれの反応が見られる場合でも、ごく微量を摂取しただけでも激しい反応を起こすことがあるため要注意です。
牛乳アレルギーでは主に次のような症状がみられます。
- 皮膚
皮膚の赤み、かゆみ、蕁麻疹 - 口、のど
唇、舌、口、のどの違和感やかゆみ・腫れ、口内炎、声の枯れ - 消化器
腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、血便 - 眼
眼の充血、かゆみ、涙、まぶたの腫れ - 呼吸器
鼻水、くしゃみ、鼻づまり、咳、喘鳴(ゼーゼーいうこと)、呼吸困難 - 全身(アナフィラキシー)
上の症状が同時多発的に起こり、ときにショック状態(血圧の急激な低下、頻脈、意識障害、失禁)
牛乳アレルギーの検査方法
牛乳アレルギーが疑われる場合、血液検査か皮膚検査、もしくは完全除去検査によってアレルギーの有無を判断します。
血液検査
血液を採取し、成分をチェックします。牛乳アレルギーを引き起こすタンパク質に対する抗体があるかどうかで、牛乳アレルギーの有無を判別します。
皮膚検査
皮膚の一部に小さなひっかき傷をつけ、牛乳アレルギーのアレルゲンエキスを塗布して変化を観察します。もしくはアレルゲンエキスを染み込ませたパッチを腕の内側などの柔らかい部分に貼り、変化を観察します。いずれの場合も、皮膚に赤みが出てくるなら牛乳アレルギーがあると判別します。
完全除去検査
牛乳もしくは乳製品、いずれかが含まれる食品を2週間にわたって完全に除去します。母乳栄養の場合は、お母さんも牛乳と乳製品、いずれかが含まれる食品を2週間完全に除去します。除去前と比べて身体に見られる症状や状態(赤ちゃんの機嫌の悪さや夜泣き)が改善されるなら、牛乳アレルギーがあると判別します。
日本人に多い「乳糖不耐症」とは別物
日本人の中には、牛乳を飲むと下痢をしてしまうといった「乳糖不耐症」の人が少なくありません。これは牛乳に対する反応ですので牛乳アレルギーと混同されがちですが、実際のところはまったくの別物です。
乳糖不耐症とは、牛乳に含まれるラクトース(乳糖)と呼ばれる糖分を分解する酵素「ラクターゼ」が不足しているために起こる症状です。牛乳に対して特定の反応を起こすアレルギーではなく、牛乳をうまく消化できないために起こってしまう反応ですので、同一のものと考えることはできないのです。
乳糖不耐症は、ラクターゼ欠損症とも呼ばれます。下痢以外にも、おならが頻発したりお腹が張ったりする消化器官の症状が見られます。また、牛乳だけではなく乳製品を摂取したときにも、下痢やお腹の張りといった症状が見られることがあります。消化する際に生じる反応ですので、食べてすぐにではなく、食べてから30分〜2時間後に症状が出ることが多いです。
乳化剤や豆乳は乳製品?
牛乳アレルギーの人は、牛乳だけでなく乳製品や乳飲料などの「乳」がつくものを避けなくてはなりません。では、乳化剤や豆乳も、牛乳アレルギーの人は避けるべきなのでしょうか。
乳化剤の「乳」は乳化の「乳」
ドレッシングやマヨネーズなどの調味料やお菓子の原材料表記を見ると、「乳化剤」が記載されていることが多くあります。この乳化剤とは、乳化、つまり普通の状態では混ざりにくいものを混ぜて濁った均一の素材にするために加えられる物質を指していますので、牛乳や乳製品とは関係がありません。一般的には、乳化剤として大豆や卵由来の物質を用いることが多いです。
豆乳の「乳」は牛乳に似ているという意味
大豆を水で煮詰めて搾った豆乳。見た目が白濁していることやコクのある味が牛乳に似ていることから豆乳と呼ばれるようになったと言われています。つまり、これも「乳」とは名前がつくものの、牛乳とは何の関係もありませんので、牛乳アレルギーの人も安心して飲むことができます。
味が牛乳に似ていることから、牛乳アレルギーのある人のための料理に活用されることが多いです。プリンやアイスクリームなどのお菓子に使用したり、コーヒーに加えてカフェオレ代わりに飲んだりすることができます。牛乳アレルギーのある人は安心して口にできる成分ですが、牛乳と同じく重篤なアレルギー症状がでる恐れのある大豆で作られていますので、当然のことですが、大豆アレルギーの方は避けるようにしてくださいね。
牛乳アレルギーへの対処法
牛乳アレルギーへの対処法は次の通りです。
■牛乳・乳製品を避ける
一番の基本はアレルギーを起こすもの自体を摂取しない、ということです。日本人の食生活が欧米化してきたこともあり、牛乳や乳製品は普段の食事のいたるところに潜んでいます。
一般的に良く知られている牛乳やチーズ、ヨーグルト以外にも、コンデンスミルクや生クリーム、乳酸菌飲料なども牛乳アレルギーの原因となります。ケーキやプリン、チョコレート菓子、アイスクリームなどのお菓子や、グラタンやクリーム系のパスタなどには乳製品が大量に使用されていますので注意が必要です。効率よく避けるためには、特に次の点に注意をしてください。
1.代替ミルクを使用する
市販の粉ミルクには牛乳タンパクが含まれているため、牛乳アレルギーがある乳幼児にはアレルギー反応が出る恐れがあります。「タンパク加水分解乳」やアレルギーの子供向けの「特殊ミルク」などのミルク代替製品を使用するようにしましょう。
2.原材料表示をよく確認する
加工された食品には、牛乳を原料に用いているものが非常に多くあります。また、食べ物や飲み物だけでなく、医薬品にも牛乳タンパクが含まれている場合もあります。医薬品を服用する場合も、原材料表示をしっかりと確認するようにしましょう。
3.母乳の場合は母親の食事にも注意
お母さんが牛乳や乳製品を摂取していると、母乳に牛乳タンパクが移行する恐れがあります。牛乳アレルギーのある赤ちゃんに授乳している期間中は、お母さんも牛乳や乳製品を意識的に避けるようにしてください。食生活から乳製品を取り除けているか不安なお母さんは、一旦母乳栄養を止め、牛乳アレルギーの赤ちゃん専用の粉ミルクを利用するのも良いでしょう。
■減感作療法
重いアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを防ぐために、医師の監視下の元で牛乳を少量ずつ摂取し、体に慣らしていく「減感作療法」というものもあります。ただし、自分の基準で身体を牛乳に慣らしていこうとすると、症状が重篤化する可能性もあります。必ず医師に相談し、自己判断で牛乳や乳製品を摂取しないようにしてください。
まとめ
牛乳アレルギーは摂取してからすぐに反応が出る場合も多いですが、反応が遅く起こる遅延型も起こりやすいという特徴があります。そのため、アレルギーの原因が牛乳・乳製品であることがわかりにくいケースも少なくありません。
また、牛乳アレルギーの約90%は生後3ヶ月以内に発症することがわかっています。乳児は話すことができないため、便秘や下痢、不機嫌、夜泣きなどが続いていれば、牛乳アレルギーを疑ってみたほうが良いかもしれません。牛乳アレルギーであるのに粉ミルク栄養や乳製品を摂取しているお母さんの母乳栄養を続けていると、症状がさらに重篤になる可能性もあります。少しでも「変だな」と思われるときは、小児科などの医療機関に相談してみましょう。